正倉院所蔵品   ポルトガル製べっ甲象牙張橿  徳川家康の眼鏡 (久能山東照宮蔵)



べっ甲細工とは赤道を中心に南北緯度23度の回帰線の内側にある年間を通して水温が25度を下回ることのないサンゴ礁に生息している海がめの一種「玳瑁(たいまい)」の甲羅.爪. 肚甲を巧みに加工したものです。 玳瑁の生息地はおおまかにカリブ海.太平洋.インド洋の3つの地域にわけることができます。太平洋やインド洋の玳瑁は黒い斑点が多く一般的なアクセサリーや細工物に 使いカリブ海で取れた玳瑁は赤い斑点があり良質で高級なアクセサリーや眼鏡のフレームなどに使われています。

中国ではべっ甲細工は6世紀末ごろからつくられるようになったといわれています。8世紀の唐の時代になると様々な装飾品がつくられるようになり日本にも奈良時代に伝えられました。当時の玳瑁細工を用いた工芸品 が正倉院御物のなかに数点保存されています。

中国で生まれたべっ甲細工の技法は16世紀末にポルトガルに伝わりやがてヨーロッパ各国に普及していったといわれています。イギリスやフランスでは王室でもべっ甲の扇や手鏡.髪飾りなどが愛用されていたといわれています。 そしてヨーロッパで作られたべっ甲はポルトガル船が長崎に入港したときに日本にも伝わってきました。徳川家康はオランダ人から献上されたべっ甲の眼鏡を使っていたといわれています。やがて江戸時代にはいり長崎に住む唐人から製作技術を学び長崎と江戸を中心に べっ甲細工は日本人の手でつくられるようになりました。そしてその技法は部分的には機械化されていますがほとんどの工程は当時と同じ手作業によって時代を超え職人の手から手へと現在まで伝承されています。



参考資料 越中哲也著「長崎のべっ甲」 鼈甲組合 「長崎べっ甲物語」