自作童話 夢いっぱい   悲しみだけが夢をみる

まえがき


いまから30年ほど前のお話です
当時  べっ甲の原材料である玳瑁亀の輸入には上限が決められていて制限がかけられていました。
しかしまさか輸入禁止になるとは誰も考えていませんでした
そんな最中 店舗の老朽化に伴い長崎市浜町の本店を建て替えることになりました。
リニューアルに合わせてすべてを一新するため版画家の山本容子さんにお店の暖簾の代わりとなるような一枚の絵の制作をお願いしました。
山本さんはわたくしの依頼を快く引き受けてくれました。
「あなたの大切なお仕事のなかにわたしを選んでもらえて光栄です」
と言っていただきました
納期が迫るなか山本さんと音信不通になりました。
そして納期ギリギリに連絡がはいりました。
東京駅丸の内北口の東京ステーションホテル一階の喫茶店で待ち合わせて数カ月ぶりに会いました。そこには一枚の絵がありました。
「わたしは軽い気持ちであなたの仕事を受けた。何年も絵を書くプロとしてやってきたのだから簡単にできると思っていた。でも 実際にやってみると亀のかたちが浮かんでこなかった。考えても考えても絵の真ん中にはいるカメさんの顔が浮かんでこなかった。納期が迫っている。困った。ベルリンでのお仕事があったので出かけた。世界の絵本の展示会があるという情報を知り 会場に行けば必ず亀を主人公にした絵本があるはず その絵本を見れば亀のイメージがわいてくるのではないか すがるような気持ちで会場に行った。これはと思えるような亀の絵本はなかった。日本に帰れば納期が待っている。時間がない。困った。飛行機に乗るまでの時間を利用してベルリンの水族館に行った。亀が泳いでいた。これだ と思った。川口鼈甲店のストーリーが浮かんできた。帰国して絵を仕上げた。約束の日の朝 徹夜で完成させた。わたしのこの顔を見て。ボロボロでしょ。あなたのお仕事をかたちにするのにわたしがすごく苦しんだということをあなたには知っていてほしい。普通 依頼主にこんな事は言わないのだけれど。この絵にはわたしの思いがはいっているから」  
と言われました。

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