原材料 工具
デザイン
細工をはじめるまえに完成品をイメージしながらどういった材料をどこにどのように使用すれば製品が立派なものにできあがるのかを製品について総合的な見地から構想を練ります。玳瑁の甲羅は一枚一枚に微妙な違いがありますのでその選択によっては製品の出来栄えにも大きな影響を与えます。製品に適した甲羅を調達し選び出していくのはとても重要な作業のひとつです。
木型作り
甲羅は比較的薄い板状になっているので大きな製品の場合は形を決めるため 檜でつくった木の芯を使用することがあります。この芯になる木型に合わせてべっ甲を一枚一枚張っていきます。この木型を使うことによって立体的に複雑な形状を表現することができます。
甲羅の裁断
細工用の生地を造るために甲羅を製品にあわせて適当な大きさに裁断していきます。裁断用の型紙を正確に作り選別しておいた甲羅に合わせて罫書きをして糸鋸で切り取っていきます。
地造り
良い生地をつくるためにはそれぞれの甲羅をしっかり密着させることが肝要です。そのためにはそれぞれの材料の表面が可能な限り滑らかであることが要求されます。また甲羅の表面に油や汚れがほんの少しでもくっついているとうまく接着しないので細心の注意をはらいながら不純物を取り除いていきます。切り取られた材料には無数の傷があるのでカンキリなどの道具を使って材料の表面を滑らかに削ります。さらに丁寧に鑢やペーパーをかけてきめ細かな表面に仕上げていきます。製品によっては材料の厚みと広さ.さらにその均一性が要求されますが甲羅は厚い部分と薄い部分があるのでペーパー掛けの終わった甲羅を重ね合わせて一定の厚さと広さを持った生地を造り出し ていく必要があります。厚さを増すための材料を「駄目地」と呼び多くの場合透明度の高い爪甲や肚甲が使われます。重ね合わせて一定の厚みと広さを持った材料に「水」と「熱」と「圧力」を加えることでべっ甲の特性を活かして材料を一体化させていきます。
万力打ち
材料を鉄板や柳の板に挟み締め付けて門型万力を使い圧力をかけて材料をプレスしていきますが万力を打つときに材料がずれないようにだめとりをした材料をピンチコックではさみ熱湯につけて粘着させ仮付けをします。また適温に熱した火箸で要所要所を挟むことにより火箸の熱で仮付けをすることもあります。べっ甲の摩訶不思議な特性は水と熱を加え圧力をかけていくと素材が一体のものになってしまうということです。たっぷり水分を含ませた柳の板で仮付けされた材料を挟み外側を適温に熱した鉄板で挟んで万力で締め付けていくことで重ね合わせられている材料は継ぎ目がわからない一枚の板になります。水加減と熱加減と圧力の加え方により鼈甲の板の出来具合に優劣が出てきます。万力は徐々に締めていきべっ甲に熱が加わったころに一気に強く締めます。万力を閉めて10〜15分ほどた ち材料が一枚の板になったところで取り出します。素材の硬さや厚みによって温度や所要時間が変わってきますのでべっ甲細工の工程のなかでもっとも難しい微妙な加減を必要とするところです。
鏝着け
板状に加工されたべっ甲を卵白を縫った芯になる木型に熱した鏝で少しずつゆっくり押しつけて貼っていきます。付き具合をよくするためにべっ甲自体にも卵白を塗ります。貼りながら同時にこのときにできるしわを延ばしてなくしていきます。貼り終わると表面を滑らかにするためにカンキやキサギで再度削ります。さらに磨きをかけて艶出しをして仕上げます。このときの磨きは地造りのための磨きとは異なり製品としての価値を高めるための仕上げの作業です。
彫刻
彫刻は板状に成形された生地に彫ります。生地の上に図案を書き外形を糸鋸を使って切り抜いた材料に図案に従って大きいところは糸鋸を使い細部は彫刻刃などを使って彫っていきます。
磨き
磨きの結果は製品のよしあしを左右する作業です。回転する布バフで粗磨き(砂かけ)をしたあとに磨き蝋をつけて仕上げ磨きをして艶を出していきます。この艶出しの工程で高級品の場合は鹿の角粉と羅紗で磨き仕上げに掌でこすって磨き艶を出していきます。
資料提供 長崎市べっ甲工芸館