たつる君は考え続けました。今回はママに質問してどちらの考え方が正しいのか教えてもらうわけには絶対にいきません。二人とも自分で答をしっかりみつけているのですから。よしなが君に賛成なのか.とのだ君に賛成なのか,それとも自分は違う考え方なのか。どうもよしなが君もとのだ君も勉強のやり方のことだけを言っているのではない気がします。なんだか「あなたはどういう生き方をしたいのか」 とか「どういう価値観を持って日々をおくっているのか」とか途方もなく難しく大きな問題を突きつけられているようでたつる君はとうとう頭を抱えてしまいました。
「二人とも言っていることは違うけど自分のやり方をつかんで勉強に取り組んでいるように思える。だからいつも自信を持って胸を張っているんだ。やり方が違うだけで勉強ができるように努力しているのは二人とも同じだ。でもそもそもいったい何のために勉強しているんだろう。自分のためだと思うけれど もしかして何か他にもっと素晴らしい答があるのかしら。もしかして二人ともその答を知っているのかしら」
もう日が暮れています。外は真っ暗になりました。
「これ以上考えても無駄だ。答が見つからないときには目の前のことを淡々とやるしかない。目の前のことがきちんとやれなくて未来なんて見えるわけがない。だって未来の僕はいまの僕がつくるんだもの。とにかくまず勉強して一番になろう。あの二人を追い越すことができたら答がわかるかもしれないし」
たつる君は考えるのをやめて早速算数の問題を解きはじめました。算数はまとまらない考えや落ち着かない心を沈める特効薬です。目の前の問題を解き続けました。
しばらくするとキッチンから
「お兄ちゃん ご飯よ」
と妹のすみれちゃんの声が聞こえました。
お腹がグーッと鳴ってたつる君は我に返りました。家に帰ってからおやつも食べずに考え続けたうえに算数の問題をたくさん解いたので頭が疲れてもうヘトヘトです。
今日の夕食のメニューは手作り餃子で テーブルの真ん中の大きなお皿には香ばしいかおりの焼いたばかりの熱々が山盛りになっています。
「ママと一緒に作ったの。味はどうかしら?」
「すみれ すごくおいしいよ」
お腹ペコペコのたつる君は餃子を口いっぱいに頬張りながらこたえました。
「すみれはママのお料理のお手伝いがしっかりできるのよ。すみれのつくった餃子は一つ一つきちんと形が揃っているでしょう。ママよりじょうずね。味のセンスもいいの。調味料を入れる量だって一回見たら紙にも書かずにずっと覚えているんですものね」
ママはとても嬉しそうです。
「きっとすみれはいいお嫁さんになるね。美味しいものをみんなで食べるのが一番幸せだよ。僕は悩みがなくなった気がする」
たつる君に褒められて顔を赤くしたすみれちゃんはにっこり笑いました。
「そういえばお兄ちゃんは今日とても疲れているみたい。こんな時はたくさん食べるときっと元気になるよ。体が元気だと心も元気だよ。私のぶんもどうぞ召し上がれ」
まるでたつる君のお姉さんのようなすみれちゃんの言葉にママとたつる君はびっくりしてそのあと3人で大笑いとなりました。
先頭のページ 前のページ 次のページ >|