第一話  たつる君  南の島へ行く 


たつる(樹)君は小学6年生です。
勉強も運動も頑張ってやっています。
何でも一番というのが好きなのですが幼馴染みのよしなが(吉永)君ととのだ(殿田)君にだけはどうしても勝てません。
いつも二番手に甘んじてしまっています。
将来は学者になりたいと思っていてママがうるさがるほど
「これどういう意味 …?」
と色々なことを聞きたがる男の子です。

夏休みのある日 たつる君は出かける準備中の忙しいママにまた質問をしています。
「ママ お仏壇ってなに?」
「亡くなったおじいさんやその上のおじいさんのお部屋よ。ここにあるでしょう。毎日きちんとご挨拶して勝手に触ったり引き出しを開けたりしてはだめ」
家の畳の部屋にある古びた木で作られた自分の背より高い大きな四角の箱のことだと思い当たってたつる君は頷きました。その箱の中には漢字が書かれたたくさんの置物があって.お水やご飯.お菓子や果物が並べられています。いちばんきれいに咲いているときのお花もいけられています。毎朝ママが扉を開けて夜ママが寝る前にその扉は閉められるのです。
3歳年下の妹のすみれちゃんもママに言われて「はーい」と元気に返事をしました。


ママは出かけて行きました。
「お兄ちゃん お仏壇の中を見てみようよ」
すみれちゃんはさっそく引き出しを開けて中に手を突っ込んで何かを取り出そうとしています。
「こら すみれ ママがいけないと言ったじゃないか」
と言いながらたつる君も興味津々です。
二人が協力して引き出しの奥から引っ張り出したものは表紙が黄ばんだ古いスケッチブックだったのです。


スケッチブックの中にはバラの花やコスモスや菊やかもめや猫やはとやペンギンなど 色々な絵がたくさん書かれていました。
「誰が書いたのかな。そうだ パソコンに取り込んでこの絵を動かしてみよう」
最近パソコンを使い始めたたつる君はもうすみれちゃんのことなど眼中にありません。
パソコンを立ち上げ夢中で動物の絵を取り込み始めました。
飽きてしまったすみれちゃんは外に遊びに行ってしまいました。


その時です。スケッチブックの中から大きな耳のうさぎの絵がピョンと一回転して勝手に画面に入ったのです。
うさぎは画面の中を右に左に飛び跳ねています。
たつる君の頭のなかは真っ白になりました。
いつもそばにいる飼い猫のトラの鳴き声がにゃんと遠くで聞こえました。

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