岩波新書 「職人」
長崎で鼈甲細工をやっている職人の友人がいます。川口鼈甲店の川口洋正さん。むかし長崎の中心街「浜町通り」には鼈甲の専門店が八軒もあったそうですがいまはこの店が一軒だけ。同じ長崎を代表するカステラの職人とくらべると時代に押し流される職人の姿がみえてきます。鼈甲=カメの甲といえば、かんざし、櫛、眼鏡の縁、むかしから馴染みの品ですが職人はいるけど素材がない。珊瑚細工もそうですが鼈甲も伝統工芸品。通産省は伝統工芸品を守る運動はしてもワシントン条約まで視野に入れた対策を考えようとはしていません。川口さんはデザインの工夫で若い人むきの品を考えたり、使用する鼈甲のパーセントを明示することによって仕事を続けようとしています。地球環境を考えながらワシントン条約と共生しようという道を探っているのです。