鼈甲の加工法
先つ鼈甲原料 たる玳瑁の甲其儘では平滑で無く彎曲して居りますから、之を平面になす爲一尺五寸角位の鐵板に挾み、ブレス締と稱し熱を加えて強く締め一先づ平にして所用の大さに切断し、厚さが一定しない所が有れば燒繼と稱する方法にて蒲い部分には斑點又は色合を合せて他の甲を重ね合せ厚過る所は削り取りて一定の厚みとなし、色の悪き所は切捨てて斑點を望みのままに生かせるよう取捨しつ順次繼ぎ合せ、全く所用の大きさとなし適當の型に切斷して製作するのであります。そこで斷合せ方法について申上ますが、斷合せ部分をガンギヤスリ、サンペーパ、木賊の順序で鼈甲の傷及薄皮を全部取除き、手に有る油氣を入れぬよう注意し是れをC水に濕したる柳の薄板を以って挾み、其上から燒いた金火箸(ヤツトコの格恰をした大なる物)又は鐵板の燒いた物で挾み合せて充分に締めると、鼈甲自體の粘力により接着して殆ど合せ目等は不明になり、元よりの一枚ものの如くになるのであります。然し方法は頗る簡單では有りますが、燒金の熱度を水をかけたる水玉の上や工合或は水に漬けたる瞬間に起る水音の工合等にて、加減調節をなす等極めて熟練を要するもので有ります。斯くて所用品に對する一定の厚味及大きさが出來れば、或は櫛にヘヤピーンに化粧具にと思ひ思ひに加工するのでありますが、其の用途の如何又は鼈甲の曲直を自由にする等の爲には金具・木具を應用し、加熱の度合、手工上に練達せる技工を要します。
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