結論
美は生物の生命でありまして.申迄も無く鳥獣に至る迄各々自然の 美を以って生れ、山河草木悉く美に恵まれない者庭無いので有ります。然るに萬物の靈長たる人類は比較的美に恵まれないので.一面恵まれたる智識と技術により美を求め且つ装ふことは人類自然の欲求であると存じます。玳瑁(鼈甲)は.天然の美を以って生まれ.殊に其肉は美味にして營養に富み.甲羅は加工の進歩如何により今後幾多工藝美術に應用出来得る物であります。
然るに遺憾ながら我が日本領海内には委任統治諸嶋、其他に僅少の玳瑁が棲息するのみで、此材料は殆ど外國より輸入するの他無き現状でありますから、我國経済界の状勢より見るも、早く日本領海内適當の地に養殖する事を研究し、輸入の必要のないやうにし肉は食料とし甲羅は工藝美術の材料として、我が大和民族が特に蔑まれたる天賦の技術を益々精練し、其製作の巧緻に努力し、以って世界人類が求むる美の欲求に應じ、引ひては我産業輸出を旺盛ならしめ國軍進展の一助となす事は.我々當業者の責務なりと痛感する所で有ります。此の意味に於きまして鼈甲美術工藝に精進しつつありますから.何卒大方諸賢のご援助と御指導を切望してやまない次第で有ます。 終り
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