鼈甲製品の保存及手入法
鼈甲品の保存法としては、一般毛織物の如く虫喰の豫防が肝要でありますが、鼈甲虫は三種計り發見されて居ますが何れも比較的大なる物でありますから、第一虫の 發生を防ぐ爲め濕氣及糊氣の無き塲所に置く事が必要であり、從って絹・綿・布・日本紙等に包まぬ事、桐箱及サック等に裸の儘入れて保存せぬ事に注意を要します。保存の良法としては新聞紙に包み、ナフ タリンを入れ、乾燥せる所に置く事が最も良く、若しサックに入れ置く必要品は新聞紙にて包み、サックに入れ其上より叉新聞紙に包み置く事、而して年一回位、所謂虫干をなし 萬一、虫喰ひを生じたる時は直ちに當業者により修理の上、前に用ひたるサックを廢し、新しき塲所に置き替へる事が必要であります。手入法としては先づ最初に汚れたるホコリを 輕く彿落し、金巾の苗ハンカチーフを洗ひたる布切にて極小量の髪油を附け拭ふ事、叉櫛の齒或は彫刻に垢の附したる時は古齒刷毛に石鹸を附け洗ひ落したる後、前述の通り油拭をする事、而して立派にならない物は根本的に艶の消えた物でありますから、簡 單なる方法としては鼈甲研磨藥を御求めになり(チユプ入り藥品があり)、金巾に附して磨けば完全と迄は云ひ得ませぬが、大体八歩程度の艶が出ます。筒完全なる光澤を要する 塲合は、僅少のエ料にて新品と變はらぬ光澤に還元します。叉破損品の塲合は當美者に依頼する外ありません。大部分の破損品は完全に修繕が出來ますから信用有る. 當業者に命ぜらるる事が肝要です。茲に鼈甲愛用者各位に一言御注意申上置き度き事は常に鼈甲を手掌でなで、又は磨いて見る人か多いが、是れは手に油氣のある爲め却て艶を損じますから、艶を出すには 艶出法にて説明せる通り手の油氣を去つて鹿角粉又は齒磨粉を附し磨く事を御忘れにならぬよう御願ひ申上ます。
先頭のページ 前のページ 次のページ >|