和甲製品


和甲とは正覺坊の背甲でありますが.此甲の厚味は極めて 薄き爲め大部分張甲製品に用ひ、其作品は總て大形の化粧具・箱類・盆・莨入等輸出向品が多く、例へば手鏡の如き物の構成を分解して説明すれば.鏡の背板の透明有る部分は牛角を延ばした板(白角又は正生地と 稱す)に和甲を張つた物、枠はK水牛を延ばした板(K水角又はK唐と稱す)に和甲を張った物でありまして、是等は張甲製品により前に述べた通りですから省略致しますが、該品を一般に張甲と云はす和甲製品と 稱して居ります。  
         
         
和甲製品の接着法      
和甲は本鼈甲の如く自然の粘力は乏しくありますが、同性原料を接着する時はやはり熟度を高くして水にしめし 鼈甲と同様の方法により、異性物と接合する時は鶏卵の白味を極小量用ひて、鼈甲の接着法と同様の方法によりますが大した變りは有りませぬ。  
         
         
和甲製品の特後と欠點    
和甲製品は長崎獨特の物産でありまして、特長とする所は原料が比較的安 價であるばかりでなく長崎は永年の經驗上、該品に對しては特異の熟練を有し居る關係上、其製品は他國の鼈甲業者より見るも豫想以上に廉價でありまして、而も其原質が 鼈甲とは龜の類を異にするのみで同一種 屬の天然物の事でありますから、其仕上り品は光澤・色彩・斑點・模様共に特に鑑識眼の具備せる者の外 は、本鼈甲との見分けが困難なる程度の物で、殊に大形作品には原料低廉でありますから鼈甲代用品として、最も適當にして重寶であ少ます。試みに和甲と本甲の價格を比較しますれば、大形品は約五分の一.以下四分の一見當と見て大差は有りませぬ。尤も鼈甲及和甲・牛角・蹄混合製品もありますが、是れは別である事を御含み願ます。和甲製品の欠點を擧げますれば、和甲品は前述の通り原料が異性物の混合品であるから、其製品の種類により欠點が生ずる譯でありまして.例へば櫛の如き齒先の尖ぎりたる物は、使用中齒先より合わせ目のはなれる虞有り.箱の如き角つぎの物は繼目よりはなれる虞が有り、叉ジュリケースは仕上後.餘程乾燥の完全ならざる時は内部の臭氣により銀製品等、忽ち變色する虞が有りますから櫛又はビン類は特に御注意が肝要で.箱類は角で繼合せの無き物に、莨入.ジュリケース等は内部の臭氣が無き物に夫々注意を要する事出來ない欠點を擧げる事が出來ます。

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