玳瑁の生息地


「たいまい」は我が国の近海に生息していないので、我が国で使用していた全ての玳瑁は、異国より持ち渡られてきたものである。然し、時として沖縄の海では笹亀という小さな玳瑁の一種がとれることがあったという。
現在においても我が国で玳瑁を材料としてつくられている「べっ甲細工」 の原材料は、全て海外より輸入されている。
中国本土においても玳瑁の生息地はなかったので、中国本土で使用された玳瑁も遠く南方の海域より運ばれてくる貴重品であった。中国の古書によると玳瑁の生息地を次のように記している。
蔵器  嶺南の海畔、山水の間に生まれ、大きさ扇の如し、亀甲に似て中に文あり。(原漢文)
註 嶺南とは中国広東.広西地方<諸端大漢和辞典>
虚衡志 玳瑁は海洋の深き処に生ず、状、亀鼈の如し、而して殼やや長し、背に甲十二片あり.
黒白の斑文あり。錯わりて其幇辺かけて鋸歯の如し、足なくして而して四鬣あり。前は長く後は短なり。鱗に斑文あり。甲のごとし。海人、養うに塩水を以てす。飼うに小魚を以てす (原漢文)
江戸時代、我が国でこの玳瑁の生息地について論説している人物は、長崎の人で天文地理学者として有名な西川如見である。如見 (一六四八-一七二四) は呂宋に渡航したこともある西川忠政の孫であり、鎮国時代に内外の諸書や出島のオランダ人、唐人屋敷の唐人より伝聞し、海外の事情については強い関心をもち世界の地理、物産について述べているが、その中で玳瑁の産地について次のように記している。
一、亜細亜大洲の内 南天竺の大海にある蘇門塔良と云う嶋国なり (現在のスマトラ)
日本より海上二千四百里の大熱国なり。この国の冬は日本の五、六月の如し。人物色黒、常にはだかなりと云う。
一、?泥国 (現在のボルネオ)
日本より海上三千九百里 大熱国 八季の国 人は賤し 日本ほどの島なり
咬嗜巴国(現在のジャワ島)
日本より海上三千四百里 南天竺より遥か南の島国なり
占城国 (現在のベトナムの南地区)
日本より海上一千七百里
母羅伽国 (現在のマラッカ)
里程上に同じ
以上五ケ国いずれも大熱国なり (原漢文)

昭和五十六年一月の長崎県発行のべっ甲製品についての調査書によると 「たいまいの生息地」 として次のような報告書が掲載されている。

ベっ甲製品の原料となるタイマイはウミガメの一種で、北緯十度と南緯十度の間のサンゴ礁の発達したところに最もよく生息しており、北緯二十五度ぐらいまでの真冬でも水温が二十度を下らないことが必要とされている。
「たいまい」 の生息地で現在わが国のべっ甲細工の原料を輸出している国を大別すると次の三つのグループにわけられる。
一、カリブ海産のタイマイ
キューバ、パナマ、ケイマン諸島、その他十六カ国より輸入。
一、太平洋産のタイマイ
インドネシア、マレーシア、フィリッピンなどその他八カ国。
一、インド洋産のタイマイ
ケニヤ、タンザニヤ、などその他十二カ国
同報告は更にその輸入される割合と産地別の玳瑁の特長について次のように記している。
昭和五十四年の輸入通関実績
年間のたいまいの総輸入量は約四〇、〇〇〇キログラムである。その比率は
一、太平洋産四五%。 一、カリブ海産三九%。 一、インド洋産十六%
ほぼ以上の比率で例年輸入されている。
産地別のたいまいの特長については、
一、太平洋産、インド洋産のたいまいは黒い斑点が多く、一般的なアクセサリーや細工物につかわれている。
一、カリブ海産の玳瑁は赤い斑点があらわれており、一般に良質の玳瑁とされ、高級のアクセサリーやめがねのフレームなどにつかわれるので、太平洋産のものよりも高価で取引されている。この玳瑁について昭和四十七年六月の国連人間環境会議の提案により、翌四十八年三月「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」という条約が制定され、玳瑁は絶滅するおそれのある動物として保護を加えられることになった。
現在、我が国ではべっ甲製品が珍重されるため、これまで多量の玳瑁を輸入し加工してきていたが、べっ甲製品にたずさわる人々はこの条約に賛同し、玳瑁の輸入を自主的に必要
最少限に規制し、玳瑁の自然保護につとめると共に、玳瑁の養殖事業もすすめられている。

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