玳瑁竹形枕の製作工程表
1 杖を巻く.?瑁甲の選択 背甲13枚の中から模様.厚み.広さの適したおも甲4枚と.その上下各2枚を補助甲として.計8枚を選ぶ。
2 甲の表の肉目.裏の石目.両面の疵除く
巾広の平キサゲで。 選んだ甲を熱湯に浸し.軟らかくし.キサゲ(平らな小刀)で削って、肉目の皮膜、外面の石目の疵を完全に取り除く。
3 杖の中身の広さ、柄の反り具合と丸味.各節目間の寸法を計る. 右の計った寸法に基づいて、使用の甲の各原型を作成。原寸とする。地取りの時、又、巻く前の正確をこれにて定めていく。原形型 (地方という) は故に正確につくる。
4 巻生地の地取り、型打ち
最も重要な仕事である。 選び抜いた8枚のそれぞれの甲は、柄の箇所(横木)、杖木(縦木) の上下と、模様を考慮。地型を当てて、毛引(針先に似た小道具) で線書きして定める。
5 巻甲の、裁断を行う 直線箇所は、毛引の線に添い裁鋸(タチノコ) で、柄の曲線は、細鋸(太糸鋸) でゆるやかに回しながら切っていく。
6 甲を全部一定の厚みに整える
指の感触で厚みを計る。 裁断した甲は、熱湯に浸し軟らかにし、寓力に掛け、軽く圧して甲の表を平にする。その裏面に生じた凹凸も平板にする為、ガンギリ (削る道具) で削り一定の厚さにして行く。
7 巻易いように甲を加熱し軟らか
くする
この仕事を、生地をなやす
と云う。 生の甲羅は硬く.熱湯に浸したくらいでは軟らかくならない。これを巻さやすくする為、厚さ6〜7ミリの柳板二枚に挟み、熟した分厚い鉄板で更に上、下から重ね、寓力で強く絞める。4〜5分間の後鉄板からはずし、柳板から甲を取出す。
8 湯戻しをする 甲は、鉄板による加熱圧力によって、甲の表面に柳の板の木目がつく。又、甲そのものも圧縮されているので元に戻すため、沸騰した鍋の中に入れて約3分、木目が消え、元の膨らみにもどったところで鍋から引上げる。
9 甲を巻く前の仕事(その一)
巻く甲のはう、接着よくす
るための作業。 湯戻しを済ませた甲のそれぞれを、型地に合わせて仕上げヤスリで寸法を定め、合せ面(着ける面)をキサゲできさいで仕上げ、木賊で表面を擦って、手垢を付けぬようにして次の杖を巻く作業に備える。
10 甲を巻く前の仕事(その二)
巻く杖の白木の中身のほう、
接着をよくするための作業。 柄のほう、並びに杖木、共にその白木の表面を全体に亘り、入念に絹ヤスリ(細かい)で擦って、手垢・手油を払拭し、接着をよくしておく。
11 火仕事に使用の道具
○注、火床(炉)は独特の作りである。木炭は、炭火の粉がハネ上がらぬ上炭を使う。鉄板は二枚。押鏝は、角形、丸形、各交互に使用するので、四本必要となる。 火床(炉)には炭火を使用。下段は押鏝を焼き、上段は丈夫な鉄製の網棚となっており、これに分厚な鉄板を載せて熱する。押鏝は角形と丸形の二種。表面は砥石にて磨いている。鉄板も、押鏝も、曲げつけて接着させる道具である。その道具の火加減をする水を入れた木盥・接ける時用いる布地・接着用の卵白を入れた容器・その卵白を塗りつける木箆(ヘラ)、これらが一切の道具。
柄のほうから始める。柄の下の仕切線の箇所
12 甲を巻く
この仕事で一番大事なことは、甲を焦がさぬよう、完全に接着するよう巻くことで、火加減が大切である。良く巻けたのは、指先で軽く叩くとコツコツと固い音がし、接着が悪いのはパチパチと鈍い音がする。 柄の方から始める。柄の下の仕切線の箇所や杖の台木にまず卵白を箆で塗る。同時に甲の接着する表面にも同様に塗る。そして、巻く甲の位置を決め、平形押鏝で熱加減し、甲を強く押しっけながら巻いてゆく。巻き乍、卵白を付け、押さえた左の手で、巻くのに合せて、緩やかに、少しずつ、回し回ししながら巻いてゆくのである。
柄を巻き終えると、杖の本体(杖木) のほうへうつる。本来は、下部の方から巻きはじめるが、ここは、真っ直ぐなので、巻くのに鉄板と押鏝を用うることになる。熱した鉄板の上に濡布地を敷き、たえず布地に水を呉れその蒸れで甲を軟らかくし、巻いては押鏝で力を入れ押してつける、といった作業となるのである。こうして、上部へと次々に巻いてゆく。巻終わって、最後に節目、節目を丹念に丸鏝と平鏝で押して詰める。
13 仕上げをする(その一)
巻いた押鏝のあとの荒れを無く
する。 巻終わった杖の端々をヤスリで調え、また、杖全体にわたって、押鏝で押した跡の荒れた肌を、仕上げたガンギリを使って丹念に、軽く小刻みに削って、なだらかにしてゆく。時間を掛けての仕事。これは根気と最も熟練を要す。
14 仕上げをする(その二) 更に前記の平ガンギリ仕上げのあとの痕跡を無くしてしまう為、金剛砂塗布紙(紙ヤスリ) で杖全体を擦って滑らかに仕上げてゆく。
15 仕上げをする(その三)
紙ヤスリのキズを残していては
磨の光沢が出ない。 金剛砂塗布紙による擦を更に無くしてしまう為に、こんどは、仕上げ用のキサゲで杖の表面全体を、綿密に軽く削(こさぐ) って最終の仕上げをする。
16 最終の磨きあげ
始め、椋の葉磨き次が鹿の角を焼き粉にしたのを羅紗につけて磨く。その次、鹿の鞣皮磨き。最後の仕上げの手艶出し。 椋の干燥薬を水に約十分問漬け、手頃な軟らかさにする。軟らかくしておいて、杖の表面全体を葉を水に浸しては手で擦って磨いていく。これは、キサゲ跡が消える迄続ける。磨き終わったら、次は羅紗磨き。鹿の焼粉(角粉)を付けてゴシゴシと磨く。この荒磨きが済むと、こんどは鹿の鞣皮で、磨法は羅紗磨と同じ、強く擦るほど、熱によって光沢が出る。最後は掌に粉をつけ乍ら擦って仕上げをする。そしてこれで終るのである。
17 竹の剪定枝接けをする
明けた穴と、取着ける枝は念の為に膠を着ける場合がある。ここでは、卵白は効用がないから。 玳瑁甲、選んだ中の後尾に近い分厚い箇処の甲から、各竹の節目、節目に取付ける竹の剪定枝を切抜いて、煮湯で熱し、甲質を軟らかくし、それを細工加工を施して、磨き、その仕上げたものを、杖の身(しん)へ、回錐(まいぎり)で穴を明けて、挿込んで、ぐっと、強く押しこみ、埋めて、取付けてゆく。
18 蔓を巻く
杖に合わせて拵えた彫刻象牙の石突を嵌め込み出来上り。 竹を巻く蔓は紐状で細いが、丸味をつけるため最も分厚い甲材を必要とする。それに当て嵌る八枚の中の最後尾の背甲、大甲を使用。その甲を板取りし、熱で軟らめ、厚味を定め、鋸で幾本にも裁断をし、一本一本を熱した火ばし(ヤットコの大きい道具〕に挟み、継き足しながら長い紐状に丸めて仕上げ、茎の生長点の線入れを行い、磨きあげて、出来上がった蔓の上下の先端を、身(しん)に穴を明けて挿込んで、あとあと外れないようにきっちりと嵌め込む。
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