発刊のことば
タイマイは、正倉院宝物にありますように、遠く太古の時代から、杖・剣・琵琶等に使われ、珊瑚・真珠とともに、宮家・寺院の一部特権階級の間で珍重され、愛用されてきたものであります。
今日では、装身具・メガネ・置物等あらゆる分野でタイマイが使われ、人々に親しまれておりますが、天然資源の減少や後継者難、さらには需要の減退等もあり、べっ甲業界は大変困難な時期をむかえてむおります。
こうしたなかで、本年二月、東京のべつ甲産業が、「江戸べっ甲」として、東京都伝統工芸品に指定された事は、東京のべつ甲産業の伝統性と製造技術の優秀性が、はからずも立証された訳で、大変意を強くしているところであります。
こうした折に、「玳瑁亀図説天・地」が石川廣美先生をはじめ、諸先生方のご努力で読みよくして、発刊することが出来ましたことは何にもまして喜びを深くしているところであります。
この「玳瑁亀図説天・地」が、べっ甲産業に携れる諸兄にとって座右の書となり、べっ甲の歴史的認識をさらに深められ、伝統的な技術・技法を後世に伝える一助となりますならば、望外の喜びとするところであります。
なお、本書の発刊にあたり、ご多忙の中、関係者との連絡・調整・編纂にご努力をいただきました編纂委員の宮本正義、塩谷寛一.佐久間一氏に対し、心から感謝申し上げ、発刊のことばにかえるものであります。
昭和五十七年五月
東京べっ甲組合連合会長 大沢悟朗