玳瑁爪来着の記


唐方より舶來は甲と同じ。大坂より當地へ、始めて來着は、天明二歳の頃。江戸十軒店、唐木屋七兵衛殿方へ始めて大爪着す。夫より追々細工に用ひることを知りて、櫛・笄・簪等に作る。其の後は甲爪両品.舶來に依りて、打交へて細工に用ひる。是れ?當地にて爪用ひることは勿論知らず。上方筋も同様と相見え、先年甲箱詰にて來る節、箱の内、藁の替(代)りに詰め込み致し來る由、聞傅ふ之れに依るか。一説に詰甲と云ふ。音を仮りて爪甲と云ふとかや。然りと謂ふも字儀には當らず。実は縁甲にて然るべきことなり。

同御走直段

大爪一斤、代銀二百三拾目。中爪一斤、代銀百八拾目。小爪一斤、代銀九拾六目五分。此くの如き三通りにて御定直段を以て、御交易、御買ひ上げに相成る由なり。


同荷作の記

爪一箱三斤二三合入より三斤五合人位まで。先年五斤七斤入も之れ有り。荷作りは伐爪・櫛爪、折交るの箱多し。亦伐爪ばかりの物有り、
櫛爪ばかりの箱も有り。箱表書は、爪大中小に抱はらず、皆大爪と銘す。


?瑁爪敷量價の記

○大爪と号する物、一斤數拾二一より二十四五掛り物有り。爪始めて來り、拵へ始まる頃は、此の大爪のみ多く之れ有り。一斤の代金八九両より拾両位、以後追々引き立てて、拾五六両斤位。亦天保十十一年の頃持ち渡り甚だ少く、前代未聞の高直なり。一斤代金廿両より三十両位。極めて宜しく揃ひたる大爪一斤代金五拾両より六拾両までの品を扱ふこと之れあり。
○中爪と号する物、一斤數廿五六より五拾位掛る物有り。一斤代金四五両より七八両位まで。右同歳高直の頃、一斤代金拾五両二十両位。宜しく揃ひたる中爪廿四五両三十両までの物あり。
○小爪と号する物、一斤數五十より百二三十。甚だ少き物百五十より百八九十掛る物有り。先歳一斤代金二三両より四五両位。右同歳高直の頃、下品にて一斤七八両位。宜き小爪代金十五両廿両位の物之れ有り。
○コブ爪と異名する物、大中小ともに之れ有り。實は虫喰爪なり。是れは玳瑁亀、海中に生育する時、自然と甲爪へ蠣の類喰込み長ずるに随ひ、虫喰の廻り肉揚り、其の所はクポカに成るかたちなり (かきの形丸く、緑高く、中空なり)。


同 價を定むる記

一斤代銀何百何十目と、夫々爪の位に随ひ、各々直段を定め、或は三両斤、五両斤、拾両斤と見積り、一斤の代を以て斤數へ掛ければ、代何程と算に現はる。亦一ッ宛直打致すも有り、各々思ひ思ひに之れ有り。

先頭のページ 前のページ 次のページ >|