玳瑁抜甲の記


玳瑁服甲の記   服甲本字厭甲ハラノカフ

玳瑁亀に具足する服甲の故、甲爪同様持ち渡る筈に思はるる處、舶來之れ無きは如何なるや、未だ詳らかならず。京都・大坂辺までは邂逅登る由、江戸表にては是れまで見ず。但し小爪の内より稀に出ること之れ有りと謂ふ。一二枚にて至って小し。玳瑁家照芳翁公、二度取り扱ひ給ふ。性合色立ち宜し。極めて柔らかにて附口能く、最上成る由。甲と異なる無し。然りと謂ふも、種々の性合之れ有り。下品の物など之れ有るべきに思はる。天保十一庚子年夏、炭屋彦兵衛殿大坂よ り買下し品に、右服甲四斤入り一箱之れを見る。此の内全玳瑁服甲半ば之れ有り。肉合一二分、色合中分、其の余半は、通例唐服なり。(唐服と通名する物、唐のしようがくぼうの服甲なり。)四斤入り一箱代金七十両と云ふ。甚だ高科に思はる。尤も生地拂底の時節故も之れ有り併せ始めて賣物に見及ぶ所なり。 

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