発刊に寄せて
この度、東京べっ甲組合連合会が、国立国会図書館に蔵書されております「玳瑁亀図説天・地」を読みよくして、発刊されますことは、誠に意義深く、関係各位には深く敬意を表するものでございます。
とくに、こうした貴重な文献が、東京べっ甲組合連合会々長大沢悟朗氏をはじめ、関連団体の役員諸氏の熱意と努力によって発刊に至りました事は、斯界はもとより、多くの識者にとりましても喜びを深くしているものと存じます。
ご承知のように「玳瑁亀図説」は、天保十二年(西暦一八四一年)金子直吉先生によって著わされたものですが、この中にはタイマイの歴史とともに江戸時代のべつ甲職人と風物史を識る上でも、またべっ甲製造の技術・技法が、すでに江戸時代中期初頭に、職人芸として確立されておりますことを識る上でも、又とない貴重な文献でございます。
しかも、当時の技術・技法が今日の製造技法等といささかも異るどころか.むしろ優れているのではないかとさえ思えるほどであることは、誠に驚くべきことでございます。
東京のべつ甲業界の皆さんが、本年二月「東京都伝統工芸品」の指定を受け、振興事業の推進に、多面的な活動を続けられるなかで、歴史的観点にも目を当てられ、歴史的認識をさらに深められようとされておりますことに、べっ甲業界の慥かな成長を見る思いがいたします。
これを機会に、技術・技法の保存継承と後継者の養成に更に努力され、業界の一層の発展をみますことを願ってやみません。
終りにあたり、編纂の労にあたられた関係役員の方々に対し深く敬意を表し、私の発刊の'ことばにかえます。
昭和五十七年五月
東京都労働経済局長 横田松寿
本書は、石川滋美先生の尽力により、『玳瑁亀図説』を読みよくされ、鼈甲の素材、輸入経過、価格、流通、加工法、細工道具など、当時の状況を我々にもたいへん読みやすく、鼈甲業界の方々のみならず、多くの人が興味を抱いて読まれる事と思います。
内容的には、鼈甲の歴史や素材に関する事、又前世代の技術加工法を後世に伝えんとする著者金子直吉に感服するものであります。『熱箸を水桶に浸し、加減能くさまし、是に挟む。箸の先ヘ一粒の水を施して之れを見るに、シウ引と云う位をよしとす。挟み置く事、たばこ一服の間位、云々』と言う様な技術者ならではの興味深い表現で書かれております。
本書により、業界の方々も一層奮起され、伝統を大切にすると同時に、これからの鼈甲製品を、技術的にもデザイン的にも、高度なものへと高めるよう努力される事を期待するものであります。
昭和五十七年五月
武蔵野美術大学教授 飯田三美
武蔵野美術大学教授 水谷元彦