玳瑁龜説


玳瑁亀の説

玳瑁亀、形勢、圖面の如し。脊甲拾三枚あり。甲に黒斑淡黄色の文采有り。襟より尻先まで、竪に脊の凸く、服に甲二十九枚あり。淡黄色無地なり。胸より尻先に至り竪凹く、薬研の内の如し。俗に爪甲と云ふものは實は縁甲なり。二十五あり。爪甲脊面に添へ方は黒し (是れを俗に爪裏と云ふ。)服に添へ方は無地淡黄なり。脊より服へ折り返り、内へ肉を包む。其の折目より黒黄等分の物なり。但し爪裏にも甲の如き文采有るものも又之れ有り。○觜上下の腮に黒黄の差斑有り、鳥の觜の如し。○前足永く、後足短く、四足等先の方薄く水抓あり。脊に添へ方黒く、服に添へ方黄色を帯び、指爪一足に二本宛生ずる有り。○尾短く肉の尾なり。
○大小同じからずと謂ふ。育甲・服甲.縁甲等は定数なり。大きさ一尺位より二尺.三尺.亦三尺四五寸位の物を扱ふことあり。脊・服t縁等の甲.
緑等の甲、皆瓦を葺たる如し。一枚宛に分つ、脊甲の表に抓疵の如きなる物何れも之れ有り、是れを砂摺と云ふ。亦青苔・泥苔・赤苔等の穢あり。亦甲爪肉付きに自然に杢目あり、雲水の如く實に奇なり。
○タイマイ文字 玳瑠 ?瑁 「甲毒 甲昌」 「王我 王目」 「虫毒 虫昌」 



玳瑁甲肉合目方の記

甲薄き物、厚き四五厘より一分位。一疋分拾三枚。掛目七八合より一斤五合位。但し一斤は百六十目、唐目を用ひるなり。○中肉は一分よ り二分位。一疋分掛目一斤五合より二斤三合位。○厚肉は二分より三分位。一疋分掛目、二斤三?合より三斤二三合位、○亦三分余りの物、之れ有るを謂ふ稀なり。尤も甲に廣狭・厚薄之れ有り。故に限りては記し難し。厚さ平均なる物有り、又一枚の内に、片肉の物有るも必ず等しからず。


同斑立の記

真黒斑の物有り。○黒斑紫を帯びたるも有り。○黒に淡赤色を帯びたるも有り。○亦赤斑と云ふ物有り。是れは赤に淡黒色を帯びたる物なり。○赤蕩斑と云ふ物有り。淡赤色の斑にて水馬脳石の赤斑に似たり。○大蕩斑有り、極めて淡赤くして燈にて之れを見るに、白身と紛敷く不分明の物有り。
○斑表より裏へ真直に貫けたるをブツツリ切と云ふ。是れは継手之れ無く、挽ぬき甲と云ふ。無地物拵るには利無し。○斑表より裏へ黒白はすに抱き合ひたるを、継手有る物にて、笄・替等黒斑少なき物に拵へて利有り。伐抜甲と云ふ。○黒白の斑、半肉に抱き合ひたる物之れ有り。是れを裏斑と云ふ、甚だ利有り。○亦ゴマフと云ふ物あり。一面に一点を打ちたる如く、墨斑一ッ宛に分って、黒豆を蒔き散らしたる如し。
○中切と云ふ斑立は、甲一面に黒白流れてまだらに白身有るを云ふ。按外益有り。○亦ヘチ切と云ふ斑立は、甲下の方黒斑勝ち、上の方縁り通り渾き処へ白身を持ちたるを云ふ。按外利無し。○亦ドカ切といふ斑立は、甲下の方黒斑勝ち、上の方脇へ懸け一つ処へ、大きく白身を待たるを云ふ。


甲走價の記

先年は一枚毎、目方を懸け、両目に直し、其の甲の位を見定め、或は拾五替、二拾替、又百替、貮百替と次第を付け、両目へ各替を掛ければ、代銀何百何拾目と算顕るる處を以て價を定む。甲に符帳札紙を張って、其の代銀を記す。文化年末頃より右何十替と値打ち定むること、自然と相止む。以後更に用ひず(但し一両目の四目なり。四十両目を以て一斤と成るなり)。其の後値段を定むるは、各眼を以て甲の位により、價を定む。是れを面ブミと云ふ。尤も文政年の中頃までは甲多く舶來せり。後は少く、爪多し。故に甲を用ひること自然疎し。


甲位の記 但し玳瑁甲生地の位は、替を以て之れを定む。
  
○上晶甲と云ふは白身多く、黒斑少し。其の替、貮百五六拾替より三百替、四百替なり、此の外以上の替の甲も稀に扱ふ事之れ有り。
○上甲と云ふは、黒白等分位を云ふ。其の替百五拾替より貮百四五拾替なり。
○中甲と云ふは、白身二四分、黒斑六七分、其の替七八拾替より百四五拾替なり。
○並甲と云ふは白身三四分、黒斑七八分、其の替貮三十替よ六七拾替なり。
○黒甲と云ふは白身之れ無く、一面黒斑の甲を云ふ。其の替拾五替貮拾替なり。
右の位は文化六七年の頃の相庭なり。已後追々直段引き立て、價貴し。天保十年のころより十一二年のころ甚だ高直にて、右相遅々倍増、亦三倍増に至る物有り。


甲伐落の記(落の位、甲と同じく替を以て定む。掛目を両目に直し、替を掛けて代銀を知る)。

玳瑁甲の白身を夫々品に伐り抜き取りたる跡の黒斑板を落と云ふ。其の上品と云ふは黒身の処に斑抜孔少く、白身も少し宛残り在り。今云ふ斑有落位にて文化五六年のころは拾替位なり。其の次の黒落七八替位なり。突伐刀始めて後は、細蠻に伐り、斑抜孔多く、其の落.網目の如し。是れを網落と云ふ。品に作るに減多く、價大いに低し。下品なり。黒身分寸に伐り別つ屑を斑屑と云ふ。落の極めて下品なり。
○斑有落 白身伐残り少し宛有るを云ふ。價通例の落より格別なり。文化五六年の頃拾替位、天保十一二年ころ、生地拂底の節、大いに高直には面ぶみにて取り扱ふ。
○赤斑落 極上品には價貴し。然るに謂ふ、赤斑は稀なれば、常に得難しと。
○黒落 無瑕の物上と為す。文化五六年までは七八替なり。天保十一二年のころ三拾五替位までは高直なり。
○網落 悉く白身を抜き取りたる跡の落なり。文化年のころは、三四替位。
○斑屑 伐粉黒身にて、網落に次いで、先年は替無きが如し、唯凡その直打ちなり。
右落を以て,黒甲櫛笄簪等を作る。蒔 繪を書き指し用ひる、又鬢張にも作り用ひる。○斑屑は朝鮮・馬爪等の代呂物の胴斑に用ひるもまた京都・大坂に登せること有り。是れははら
婦紛、甲杢の櫛笄の斑に用ひる由なり。

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