玳櫛図式. 笄図式. 簪図式. 差込図式
櫛 形惣て棟厚く歯先薄し。其の棟の厚さ貮分位の物、歯先壹分位を定まれる形とす。肉平均に拵へたるを上品とす。しやくれ櫛と云ふ棟へのみ厚さを見せ、平にて肉落ちたるを云ふ下品の拵へなり。棟通りを真中の高き処を山と云ふ。棟左右の角を耳と云ふ。歯挽付きの処横筋を毛引と云ふ。毛引より棟までの内を棟幅と云ふ。歯の左右を親歯と云ふ。但し親歯の巾は棟巾より狭し、厚肉流布の頃より、親歯巾廣く、棟幅より少し狭し。歯先尖りたる処を歯摺と云ふ。歯は両面より鋸にて挽合はす。其の歯の間山の形に挽残りたる処を挽実と云ふ。挽実之れ無く、木櫛の如く毛引まで挽きたるを挽附歯と云ふ。棟の両取らぎるを切棟と云ふ。面取りたるを丸棟と云ふ。蛤の口の如き面取りを貝棟と云ふ。歯は厚き鋸にて挽きたるを荒歯と云ふ。中厚鋸にて挽きたるを中歯と云ふ。亦貮本並べ其の間壹本宛除きて挽きたるを妻夫歯と云ふ。歯に黒斑有るを土臺入と云ふ。亦一ッニッ黒斑有る物は一ッ斑貮ッ斑と云ふ。○櫛厚き物流行に付き歯へ毛を喰まず。故に打紐壹尺七八寸位の真中を絹糸を以て、櫛の真中歯拾枚程へ結ひ付け鬟の後にて結ひ付け用ひる。
○山高形櫛 圖式の如き形を云ふ。享保元文の頃圖の如し。
○利休形櫛 先年横長き形を云ふ。寛延宝暦の頃圖の如し
○政子形櫛 明和安水の頃圖の如く耳を撫したる形なり
○光輪櫛 棟巾の中に彫り透しの模様有り、明和安永の頃圖の如し。
○欄檻棟櫛 櫛地の肉より高く、棟の肉置き揚げ、丸の面を取るを云ふ。
○覆輪棟櫛 玳瑁(黒甲)櫛へ銀を以て棟より親歯へ覆翰を懸けたるを云ふ。○亦一種惣覆鹿と云ふは、歯の処のみ玳瑁を見せ、横幅二面に銀を掛けたる物なり
○月形櫛 半月の形なり。文政の頃圖の如し。
○京丸形櫛 京都にて用ひる形を写したる成るべし。
○閑清形櫛 政子形より耳の少し撫したる形なり。
○亀甲形櫛 棟一文字にて角切に拵へたるを云ふ。
○牡丹形櫛 関清形に似て唯だ毛引一文字引するのみ。
○竹棟櫛 棟へ丸竹を付したる如く.地の肉より棟を置き揚げ.竹の節貮つ三つ彫りたるものなり。唯だ欄檻棟に節を彫りたるのみ。
○利休形(一名)歯櫛 山低く耳垂.横長し。棟巾狭く、歯深く挽く故に歯櫛と云ふ歟。
○吉原形櫛 文化年已來天保に至る。専ら規式用ひる形を云ふ。
笄、形を上の巾廣く、下の巾狭し、厚み上の方厚く、下の方薄し、凡そ定まれる形なり。長短大小同じからず。各々其の好に随ひ作る故なり 其の形上角にて下丸し、髪を指し通す用と為すべし。文化年已來次第に下の巾廣く、上の巾と多分同じ。漸く下の巾上より貮厘程狭し厚み又然り。
○黒白斑に作る物バラフ笄と云ふ。胴とは上下の中を云ふ。胴にのみ黒斑有るを胴入笄と云ふ。黒斑一つ二つの物、壹つ斑、貮つ斑笄と云ふ。天保年専ら斑無き品を用ひる、無地笄と云ふ。同年角笄と云ふは四分角・五分角等惣べて幅厚く同様なる形を云ふ。此くの如き厚内笄、流布する故、髪の根差し通し難し、依って銀又は黒甲を以て笄の逆輪を作る。笄の下へ逆輪を仮りに指し、髪を指し通して取り除く具なり。
○揚枝笄 享保己來明和年頃まで専ら用ひる。上廣く下幅狭く、上角とはすにひきたると二種有り。下巾大いに狭く歯揚枝の如し、故に名とす。
○耀形笄 舟具の擢の如く面を取り作る、故に名とす。近年の擢形は角笄を中面に取りたる物を云ふ。
○丸棒笄 形、丸き箸の如きなり。
○光輪笄一名輪笄。上下縁にて内透し。胴は無垢なり。
○樋形笄 形、ろう竹を貮つに割りたる如し。
〇八角笄 形、八角の棒の如し。角立て仕立てたるを上手とす。
〇六角笄 右同断。
○筆形笄 形、筆の如く作る。
○持出し笄 笄の上壹寸程下りて、肉半ばより置き揚げ、種々の模様を彫りたるを持出しと云ふ。
○立木笄 立木の形に拵へ、枝を持出し、梅櫻牡丹等の花を彫りたるを云ふ。其の外模様推々作る。
○割 笄 形、刀の笄の如く作る。
○しのぎ 笄 笄に耳抓と抓軸とを付けたる形を云ふ。但し刀の笄より出たる形と思はる。
○丸竹笄 形、丸竹の如く、上に節を彫りたる物なり。亦節より菓を持出し作る物有り。
○切面笄 角笄を八方切面に取りたる物なり。
○花 笄 文政年の頃より作る。笄へ彫細工の花鳥の類を差し込み拵へくだを附け、抜き差し自由に作りたるを花笄と云ふ。
○両指笄 其の形両頭なり。下無く真申胴の巾狭く、両先ともに上の如く角に形作るを云ふ。唯だ笄胴斑は下の方へ寄せの斑を入る。両差は真中に胴斑を入れ、両先等分の白身に拵へたる物なり。
○両差擢形笄 其の形右同様にて面を取りたるを云ふ。
簪琴柱 前指琴柱簪、圖の如く長さ五寸七寸五分位
惣ペて耳抓附きたる物を簪と云ふ。其の形、耳抓隋圓にて表へ曲り、表のみ面無し。表の丸より裏の丸さ少さく、抓軸足巾位にて、抓に附方より肩に添へ、軸巾聊か廣し。肩貮段摺込み、肩と引付けの間を鏡と云ふ。足貮本の間を内股と云ふ。内股上の止りを引付けと云ふ。足の終を足先と云ふ。上下の中を胴と云ふ。耳抓の裏より抓軸・肩足・内股等は面取りなり。先年は耳抓少く、肩巾の貮ケ一の巾なり。文化年己來耳抓次第に大きく、猶天保年に至りて、肩巾より耳抓の巾五厘程も廣く拵へるなり。而して肉厚き物等流布す。簪、一名前差琴柱、後指琴柱と云ふ。唯だ短き物を前指と云ふ。長き物を後差と云ふ。形同じくして長短にて前後を分つのみ。其の形、元琴の柱より写したる成るべし。前差後指ともに貮本壹對を以て規式に指し用ひる。
○松葉前後簪 耳抓軸より左右へ開き松葉の羽根有り。羽根の下に一肩無くして鏡有り。其の下琴柱の如く貮本足なり。
○松葉流前後簪 右松葉の羽根無き形にて、抓軸より胴まで次第に巾廣く、胴より下、足先へ次第に巾少し狭く貮本足なり。
○紋人前後簪 足形松葉涜の如し。鏡と肩との間へ、扇蝶・菊蝶・櫻・桔梗・蔦、其の外種々の紋を彫りたるを云ふ。紋は置き揚げ無く、足と同肉なり。
○持出し前後簪 足は琴柱亦松葉涜等。肩へ草花の顆、其の外の模様を簪の肉中ばより置き揚げ、肩の左右へ持出し彫り作りたる物なり。
○鐘木簪 鐘木の如き形なり。上一文字丸木の如く壹本足碁平なり。
○臚耀簪 船具の耀の如く上一文字と壹本足と碁平同肉なり。
○霞の簪 形、霞の如く拵へ、耳抓を付ける。鶴焉時鳥を彫り、持出し打ち付け差込等に作る。
○石持前後簪 足、琴柱にて一重肩なり。抓軸と鏡の間に丸を付け、両面置き揚げに作るを石持と云ふ。
○耳抓簪 一名白魚、但し形同様にて黒斑之れ無く、無地の耳抓を白魚と云ふべし。形、壹本足にて松葉流の如し。
○小町琴柱前後簪 形、琴柱に似て、唯だ異なるは内股五厘亦壹分程も透るなり。内股引付の処に肩の出角有るを小町と云ふ。
○頭付前後簪 足は一重肩琴柱、又小町足。抓軸と鏡の間へ、一輪牡丹・梅・菊其の外の模様、置揚彫に作りたるを頭付と云ふ。
○壹本足簪一名中差。長さ六寸位。頭には松葉・石持・切子・花類を彫り置揚げ作り。耳抓有りて壹本足なり。天保年専ら流布す。
○角琴柱前後簪 琴柱の面を取らず、角に仕立てたるを云ふ。
○花簪(一名)向差 牡丹・菊が枝、其の外種々作る、小女子祝の節正面へ指し用ふ。玳瑁、銀、紛等にて好みに随ひ作る。
差込裏ックの圖
差込始めて作る時、明和安永年頃、本店にて與市殿、中橋萬屋弥右衛門殿生花の差込細工物を始めて作る。是れは花類なれば一枚宛薄く拵へ、組み付けて一輪を作る。余又然るを斯くの如く作る物生花と云ふ。前差後差等の簪へ付け用ひる。對の簪は差込も對に用ふ。其の外志□き、霞の簪等へ付け用ふ。差込裏の方へ管を持出し、其の簪の足に應じ作る。管則ち輪にして抜指自在なり。管は簪の引付まで登りて止む。鏡上差込を居る形なり。管付方、其の始めは簪の片足はめ込み用ひる。後追々持出し管を用ひず。朝鮮の生地板を以て管を別に拵へ、ツクを差込の裏へ出し管へ其の穴を貫き、生麩を以てはめ込み付け堅めて管の内にて焼き留め作る。先年の仕方持出し管は、至極保宜し。併せて
他の足へ付け替は手重し。別に紛を以て管拵へ付け置けば、又付替も手安し、去りながら保ち難し。
○文化年の頃より彫差込みを作る。文政年の頃彌々肉彫流布に付き、皆壹品だけに生地厚く椅立て置揚肉彫に作り専ら行はる。之れに依り先年の管仕方にては保ち難き故、簪足貮本共に入るべき管を拵へ始まる。尚天保年も同じ。且諸家様方笄へ差込を付け用ひるこ
と専らなり。此の頃差込大小品々有り。其の大形を以て笄へ相應じ、花笄と号するなり。
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