玳瑁甲爪来着手続の記


玳瑁甲御定直段
 上甲は壹斤に付き代銀貮百貮拾目。下甲は壹斤に付き代銀百貮拾五目、
 此くの如く二通りの御定直段を以て御交易見積るに相成り候由なり。
同甲爪來着手續記
 玳瑁舶來は拾斤口・拾五斤口・五拾斤口・亦百斤口・貮百斤口等なり。
 近來一ケ年持渡り、惣高三四千斤位宛、亦甲爪へ夫々唐方より字つけ來る。所謂球字・貢字・上字・真字・項字の類、其の外種々の銘あれども之れを略す。商人此の印を用ひずして改名す。亦甲拾三枚一疋分を壹提と云ふは、持ち渡る時、木綿赤紐を以て拾三枚を一連に致し來る故、一提と云ふか。且つ、肥前國長崎へ會所建て置かる、御奉行毎年参勤交代す。唐、阿蘭より舶來の諸品、御交易に相成る上、糸割賦五ケ所商人の出入札を致す(五ケ所とは京・江戸・大坂・堺・長崎等の商人採りを云ふ。長崎表は時々の入札に付き、他國より往來し、其の日間も之れ無き故、多分江戸商人採りなどは、長崎住居の人持切りの由、京・大坂・堺等は、長崎へ商人代って出張、詰切り居り候由、商人家名は玳瑁箱に書き來るところなり。但し此の採札、譲り渡しもこれあるべきやに付き記さず)。但し荷物の壹番割・貮番割・三番割と次第に諸品入札なり。玳瑁は會所圍に相成り、五六番割に出る。玳瑁壹斤に付き代銀何百何拾目と入札致す。落札の商人引き請け、長崎宿老立ち合ひ、荷主夫々仕分け荷作り致す(五ケ所宿老と云ふは、京宿老・江戸宿老・大坂宿老・堺宿老・長崎宿老等を謂ふなり)。松板箱詰・釘打・紙目張、角に封印致す。夫より攝津大坂唐物問屋へ差し向け登らしむ(大阪五軒問屋と云ふは、唐の糸阪物を取り扱ひ、玳瑁も多分此の問屋にて扱ふ。此の外、同所の貮百三拾七軒問屋有り、薬種・砂糖・荒物を取り扱ひ候へば、皆五軒問屋の採りなり。追々糸物・荒物と別れたる由なり。各諸品取り扱ひ、口銭は荷主より一分.買主より口銭貮分、都合三分、口銭を請け取り商賣せしむるなり)。仲買打ち寄せ入札致す。落札の仲買引き取り、江戸表へ差し下す。先年江戸引き請けは誰にても相對し取り引きのところ、文化六巳の年、當地に於て十組始り、諸商賣問屋を定む。以後は十組の内、小間物、諸色問屋井せて同組丸合小間物問屋(廿九軒なり。此の内、當時鼈甲一にも引き請けの古例之れ有る由なり。

玳瑁甲箱の圖
 極上大晶鼈甲拾三枚入と箱に銘す。
 右銘は何連も同様に認む。印は品々に銘す。
 商人家名・支月・斤量等同じからず。松の六分
 板を以て箱を作り釘打ち、紙目張り、封印有り。
 此の箱井せて薬種物の箱など、長崎に一軒の
 採りにて拵ふ。甲爪箱代銀五匁宛と云ふ。亦桐
 拵へ等の箱用ひることあれども、全く長崎箱は松に
 限る由なり。先年並びに甲類は五斤七斤入れて
 取り扱ふ。尤も甲は、拾三枚入り壹箱詰の物多し。



甲荷作りの記
 
甲壹箱拾三枚入れ多し。是れは亀甲一疋分の定数故此くの如し。荷作
 り致すべきなれども不揃にて、種々の性合ひ取り交へて、拾三枚入り
 壹箱の荷作り多し。五斤七斤の数人りは、勿論交はすべし。亦一疋分
 全揃ひて、壹箱の物有り。何れも荷主の氣に成るべし。

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